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CEOメッセージ

グローバル市場で挑戦を重ね、
新たな価値を創出し続ける
企業へと進化する

代表取締役会長CEO 
相良 暁

グローバル市場での存在感を高める

製薬業界の事業環境は、医療費に対する社会的・政策的な意識の高まりや薬価改定など、年々厳しさを増しています。また、創薬自体も、難易度が一層高まっています。高血圧や糖尿病のような多くの患者さんが待つ治療薬は既に多様な医薬品が開発され、残るはがんや中枢神経系の疾患、希少疾患など、開発が極めて困難な領域ばかりとなっています。開発コストの上昇という逆風が吹くなかで、一人でも多くの患者さんに一日でも早く笑顔になっていただくために、開発スピードの向上も求められ、製薬会社には険しい壁が立ちはだかっているというのが現状です。

当社が持続的に成長していくためには、海外市場で存在感を示すことが不可欠です。かつて20%を占めていた日本の医薬品市場のグローバルシェアは、今や4%程度。一方米国は50%、欧州は15%を占めています。このような構造変化のなかで、当社は日本の患者さんに新薬をこれからもお届けしていくという従来の方針は堅持しつつ、グローバルで価値を発揮できる企業へと変革を進め、世界中の患者さんに革新的な医薬品をお届けし続けるグローバルスペシャリティファーマとしての歩みを進めてまいります。

デサイフェラ社買収で得た
基盤と期待

グローバル化加速の大きな一手として、2024年度にDeciphera Pharmaceuticals(デサイフェラ社)を買収しました。米国を拠点とする同社は、がん領域における革新的な創薬基盤と、欧米での臨床開発・販売の実績を有するバイオベンチャーであり、当社が掲げるグローバルスペシャリティファーマへの進化のエンジンとなる重要なパートナーと考えています。

デサイフェラ社は、スイッチ・コントロール・キナーゼ・プラットフォームという独自の技術に基づく創薬力を強みとしており、難治性がんに対する新たな治療アプローチを実現する可能性を秘めています。当社のがん領域の既存のパイプラインと高い親和性を持つことに加え、デサイフェラ社が構築してきた欧米における開発・販売基盤を活用して、当社の自社販売の足がかりにできるとの利点もあります。何より、患者さん本位を事業の前提に据えている点は、当社とデサイフェラ社との大きな共通点で、当社の持続的な成長を実現するうえで、本買収は極めて有効だと判断しました。

買収後の統合プロセス(PMI)においても、研究開発機能やビジネスオペレーションの両面で順調に連携が進んでいます。2025年7月には、米国における開発・販売拠点、欧州などの開発拠点として主導的な役割を担ってきたONO PHARMA USA, INC.の機能をデサイフェラ社に統合しました。これにより、デサイフェラ社が欧米における開発・申請・販売までをシームレスに担う存在となり、スピーディかつ自律的な事業運営が可能となります。

また、両社の研究者の連携が始まっており、知見の共有が進められています。単なる資本関係を超えて、研究・開発・事業が有機的に真に融合することを目指し、共通のビジョンのもとで着実な協業が始まっています。

今後デサイフェラ社には、がん領域を中心とした新規パイプラインの創出に加え、欧米市場での浸透、事業拡大に中心的な役割を担うことを期待しています。グローバルを舞台に、自社製品を一人でも多くの患者さんにお届けし続ける企業へ、小野薬品グループは着実に歩を進めています。

持続的成長のための基盤づくり

次なる成長の柱を築く、創薬と
導入の戦略展開

一方、当社の喫緊の課題として、主力製品であるオプジーボや糖尿病領域のフォシーガ、グラクティブの特許切れが控えています。製薬会社の宿命ともいえる課題ではありますが、私はこの困難こそが飛躍の土台になると考えています。持続的成長のため、将来の成長エンジンとなる材料をいかに確保していくかが鍵となります。

まず創薬においては、がんや免疫、神経、スペシャリティの4つの重点領域に一層注力し、特に臨床段階にある自社パイプラインの充実を加速していきます。同時に、戦略的に導入品の獲得も推進。研究段階からPOC確立後の開発ステージにある案件まで幅広く対象とし、当社が半世紀以上取り組んできたオープンイノベーションを進めて、国内外のアカデミアやバイオベンチャーとの連携を強化していきます。

デサイフェラ社が欧米で築いてきたネットワークを活用し、ライセンス活動も加速していきます。実際、2025年3月に、米アイオニス社からグローバル開発・商業化の権利獲得を発表した真性多血症医薬品候補のサパブルセンについては、デサイフェラ社買収で得た欧米での開発・販売基盤があったことなどで、ライセンス契約締結に至りました。買収後、たちまちシナジーにつながった好例ですが、今後も買収の成果を最大化し、患者さんへの貢献拡大を目指していきます。

多様性を力に変える人財戦略

変化の激しい環境において、当社が飛躍していくためには、高度な専門性はもちろん、グローバルな視点、変化への適応力、高い倫理観、そしてチームで協働する能力を持った人財が不可欠です。社内育成と外部からの採用を組み合わせ、多様なバックグラウンドを持つ人財が活躍できる環境を整備することが、企業の持続的成長につながると考えています。

新卒社員に対しては、研修などで基礎的な素養を身につける一方、実務を通じて自ら挑戦し、成長を遂げていくことが求められます。多様な業務経験を積み重ねるなかで、自発的に学び、仕事の幅を広げていくことが、グローバルな変化に対応できる人財の育成につながると考えています。

キャリア採用においては、研究や開発、CMC・生産など、サプライチェーンのあらゆる分野のほか、間接部門においても即戦力となる人財を数多く迎え入れています。女性やグローバル事業の経験者など、多様な人財の登用により、従来の文化に新たな風が吹き込まれつつあります。さらに、研究員らをアカデミアなどの外部組織に派遣し、その経験を社内に還元する仕組みも積極的に実施していきます。

優先領域を明確化したマテリアリティ再編

2024年度には、経営のマテリアリティ(重要課題)を18項目から9項目に再編しました。従来の18項目は、環境・社会・経済といった広範な観点を網羅することを目的にまとめたものでしたが、より分かりやすい体系を求める声も寄せられました。そこで、より戦略的に資源を配分し、意思決定と実行のスピードを高めるため、項目の統合・再整理を行いました。

再編にあたっては、社内外のステークホルダーとの対話も踏まえながら、当社の使命や提供価値と整合するテーマを9つ抽出しました。9つのマテリアリティは大きく「成長戦略」「成長戦略推進のための基盤」「持続可能な社会の実現」の3つに区分しており、当社の現状に即したものになっています。9つのマテリアリティはいずれも、当社が中長期的に成長を遂げるための土台であり、社会から信頼され続けるために不可欠な視点です。今後は、これらのマテリアリティを起点に、経営資源の集中や社内意識の統一を図りながら、全社的な取り組みとして定着させていきます。

マテリアリティの再編
マテリアリティの再編図

デサイフェラ社の買収による欧米自販体制の獲得を契機として、マテリアリティの見直しを実施
外部ステークホルダーの声を取り入れ、18個のマテリアリティを9個に集約、選択と集中を明確化

社会的信頼に応える経営へ

当社では2024年度より、経営トップの機能を「会長」「社長」「副社長」の3代表取締役で分担し、それぞれが明確な役割と責任を担う体制を採っています。社長の滝野は海外の経験を活かしてグローバル戦略の立案と執行をリードする一方、副社長の辻󠄀中は国内事業を中心に、人財戦略などを推し進めています。そして私は会長として事業全般の意思決定を行い、責任を取る立場であるとともに、経済団体、業界団体において社会課題解決の一助となる活動にも注力していきたいと考えています。

国内に目を向けますと、薬価政策においては、薬価の予見性に課題があることから、企業が研究開発などの投資を実行しづらくなり、創薬のイノベーションを阻害しているとの指摘があります。また、近年、深刻化している、日本の患者さんに必要な新薬が届きにくくなる、ドラッグロス・ドラッグラグの問題などもあり、製薬を取り巻く社会課題は山積しているといっても過言ではありません。これらの社会課題に向き合い、行政や関係団体と連携し、制度整備や発信強化に取り組みながら、社会の信頼に応えていく。当社はその意識を全員で共有したうえで、医薬品を提供する企業としてのあるべき姿を問い続け、健全で誠実な経営を貫いていく所存です。

将来を見据えた挑戦を支えるための投資と株主還元を両立

当社は、企業価値の持続的な向上を実現するため、成長に向けた戦略的投資と、株主への安定的な還元の両立を重視しています。財務戦略の基本方針として、研究開発やパイプラインの拡充などの成長投資には積極的に資金を配分しながら、資本効率の向上にも常に意識を払っています。

株主還元については、累進配当を基本方針とし、安定的かつ継続的な利益還元に努めています。また、状況に応じて機動的に自己株式の取得を行っていく方針に変わりはありません。医薬品の開発は長い時間と多大なリソースを要するものであり、中長期的な視点での企業価値の向上が求められます。将来を見据えた挑戦と継続的な価値創出に向けて、株主の皆さまには長期的な視点でのご理解とご支援をお願い申し上げます。

常に患者さん中心の視点で、事業を通じて社会課題の解決へ

当社は2021年度、サステナブル経営方針を定めました。本業を通じた「人々の健康への貢献」に加え、「次世代への豊かな地球環境の保全」「いきいきと活躍できる社会の実現」「透明性の高い強固な経営の確立」の方針のもと、持続可能な社会の実現に挑戦し続けるというものです。新薬をお届けするという本業による、小野薬品の利益を社会に還元し続け、企業も社会も一緒に成長していく姿を目指すことが、当社のサステナビリティの根幹だと考えています。当社が成長し、その利益を原資に、新薬の創出、環境保全活動、社会貢献活動などのかたちで、社会の求めにこれからも応じられるよう、挑戦を続ける企業を目指していきます。

さらに、従来の治療法では十分に応えられていないアンメットメディカルニーズが高い領域や、医療アクセスに課題を抱える世界の患者さんの声にも耳を傾け、革新的な医薬品を届けていくことも、果たすべき使命の一つだと考えています。

医薬品を社会に届けることは、患者さんの健康を支えるだけでなく、社会全体の課題解決にもつながるものです。例えば、増大する社会保障費といった構造的な課題に対して、革新的な医薬品によって早期回復や入院期間の短縮が実現すれば、社会的コストの抑制にも貢献できます。人々の健康につながれば、医療・介護の負担軽減や労働参加率の向上など、社会全体の活力への寄与が期待できます。私たちは、微力ながらもこうした広い視野で医療の可能性をとらえ、社会的意義のある価値提供に取り組んでいきたいと思います。

医薬品の力で社会課題に立ち向かうこと──私たち小野薬品がこれまでも、そしてこれからも続けていく挑戦です。医療に求められる価値が変化する今、私たちは常に患者さん本位の視点で、未解決の課題に向き合っていきます。小野薬品のさらなる進化にどうぞご期待いただければ幸いです。