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株式会社日本経済新聞社 社外監査役
社外取締役座談会
グローバルスペシャリティファーマ実現に
向けた
挑戦と変革を支えるガバナンス体制
―
社外取締役が語る、
小野薬品のこれまでとこれから
新体制の評価
経営体制移行後の経営について、ご評価をお聞かせください。
- 奥野
- 2024年度は、経営体制への移行とともに、大型M&Aが重なる年となりました。なかでも、デサイフェラ社の買収は非常に重要な経営判断であり、同時期に代表取締役が3名体制となったことは、いいタイミングだったと感じています。意思決定が集中しがちな局面で、適切に分担できる体制が整っていたことは、当社にとって大きな意味がありました。
- 野村
- 現在は中期経営計画の折り返し地点を過ぎ、オプジーボのパテントクリフへの対応が喫緊の課題となっています。さらなる成長を目指すうえで、3代表取締役体制は非常に意義深いものであったと思います。グローバルでの経験と視野を持ち、「グローバルスペシャリティファーマの実現」という小野薬品が目指すゴールに真正面から取り組める経営体制になったと思います。
- 長榮
- それぞれが独自の視点を持ちつつ、共通の課題に向き合える関係性ができています。特に製薬業は、方向性の共有がしやすく、議論の質も高まりやすいビジネスです。多角的に展開する企業においては、部門ごとの課題意識が異なり、目線がずれたり、意見がかみ合わなかったりすることも少なくありません。当社は患者さんに貢献していくという共通の目標を社員一人ひとりが意識し、意思決定を進められている点が非常に理想的だと感じます。
- 野村
- 3名のトップによる体制が整い、取締役会の機動力が格段に上がりました。デサイフェラ社がグループに加わったことで実行した欧米の拠点再編も、グローバルで求められる水準のスピード感で進められています。それぞれの役割が明確であり、滝野社長COOはグローバル戦略、辻中副社長は国内事業を担当し、相良会長はCEOの立場から全体を統括・サポートする。視点の多様性が自然に意思決定に組み込まれており、バランスが取れた体制になっています。
- 奥野
- このトップ人事については、私たち社外取締役が主体的に関与しました。今回は、社長選任という明確なテーマがあり、さらに事業環境の変化や目指す方向性に適した人財がいたことでスムーズに行えましたが、現トップを支え、将来的にトップ候補者となる経営人財については、もっと中長期での視点が必要だと感じました。現状でも、執行層をある程度ウォッチはしていますが、次、さらにその次を見据えた候補者を計画的に育成・把握できるような仕組みが、今後は求められます。
取締役会の実効性評価
取締役会の実効性評価を通じたガバナンス向上の取り組みについて、ご意見をお聞かせください。
- 長榮
- 小野薬品における実効性評価は、非常に高い水準で定着していると感じています。もう10年近く継続されていますが、年々内容が進化していて、単なる形式的な取り組みにとどまっていません。
- 野村
- 注目すべきは、外部機関によるアンケート評価に加えて、社内事務局による丁寧なヒアリングが実施されている点です。外部評価だけでは拾いきれない部分を深掘りすることで、より実効的なガバナンス改善につながっていると評価しています。特に近年では、取締役会後の時間を活用して、次世代リーダー候補者のプレゼンテーションや部門別の戦略説明が行われるようになりました。これにより、単に「評価する」だけでなく、次の経営層を見極め、育成に関与するというサクセッションプランにもつなげていくことができています。
- 奥野
- 実効性評価の方法も、外部評価機関を導入するなど、どんどん進化しています。こうした積み重ねが、当社におけるガバナンス文化そのものを形成しているように思います。評価プロセスが単なるチェックリストに終わらず、ガバナンス向上の仕組みとして機能していることは、特筆すべき点ですね。形式的な整備だけでなく、組織としての受容力や改善意欲があってこそ、制度が実効性を持ちます。
デサイフェラ社の買収について
デサイフェラ社の買収に関する取締役会での議論の経緯や、今後の課題、期待についてお聞かせください。
- 長榮
- 事業会社によるM&Aの目的はさまざまですが、当社にとって今回のデサイフェラ社の買収は今後のさらなる成長に不可欠なものでした。
重要なのは、既存事業との補完関係が明確で、合理性の高い案件だったということです。特に当社が目指していた欧米での事業基盤の確立に向け、今回の買収が必要なピースを埋める形になりました。非常に明確な目的のもとで早くも事業展開が進んでおり、大変意義のある機会が得られたと考えています。
- 野村
- 私も同様に評価しています。欧米での自社販売を行うための基盤が整ったこと、パイプラインの拡充、創薬力の強化という意味で、グローバルスペシャリティファーマへの第一歩として非常に大きな意義がありました。デサイフェラ社との統合状況や課題は、取締役会に都度、報告がなされています。
- 奥野
- 私は人的資源の専門家の観点から、この買収後のPMI(統合プロセス)に注目しています。
人財面でいえば、デサイフェラ社の多様な人財が、今後いかにグループ全体で活躍できるようにしていくかも大きなテーマです。デサイフェラ社の女性管理職比率は当社よりはるかに高く、60%に達します。人財交流が進むことで、今後、女性活躍に限らず、グローバルダイバーシティを進めるうえでも、同社が持つ文化が当社に刺激を与えることを期待しています。
- 長榮
- PMIはまさに今後の成否を分けるカギです。いかに双方が対等な関係で価値を創出できるかが重要です。特に国際的な人財マネジメントでは、親会社が上から目線になることなく、現地の文化を尊重しながら組織統合を進める姿勢が求められます。
- 野村
- 取締役会としても、買収後の進捗状況は継続的にフォローしています。新薬開発の進展や欧米拠点の再編の状況、そして収益化のタイミングの見通しといった複数のマイルストーンを、数か月単位で確認しています。現時点では順調な滑り出しと言えるものの、次のステージで真価が問われることになるでしょう。
- 長榮
- 実際、今回の買収をきっかけに、グローバル人財のプールが一気に拡充されたともいえます。それを将来の経営人財や専門人財の登用につなげていければ、買収の意義はさらに大きくなるでしょう。
- 野村
- 今回は約3,800億円という規模の買収案件であり、当社の将来をかけたM&Aであったと思います。欧米自販を実現するうえで販売力も研究開発力も持ったデサイフェラ社の獲得は大きな成果ですが、その力を成長戦略全体にどう活かしていくか、開発が順調に進んでいるか、海外展開がさらに拡大できているか、といった点が今後の取締役会の重要な監督テーマだと認識しています。
マテリアリティのアップデートに
ついて
マテリアリティ改定にあたり、取締役会ではどのような議論がなされたのでしょうか。
- 奥野
- 従来のマテリアリティは18項目で、網羅性がある一方で、やや複雑で外部からの理解が難しい部分もありました。今回は9項目に整理され、戦略と一体化したフレームに再構築されたことで、社内外の対話も格段にしやすくなった印象です。
- 野村
- 18項目にも一定の意義はあり、特に社内にとっては、自分の業務がどのマテリアリティに貢献しているのかを当事者意識をもって見ることができました。ただ、今回の整理は、それがある程度浸透したうえで、次のステージに進むための再編だったと思います。
- 長榮
- 全体構成が非常に分かりやすくなりました。中期経営計画とリンクする成長戦略の4本柱に、基盤である人財とデジタル、さらにサステナビリティに関する3項目。この9項目という整理は、見た目にも整理されていて、他社と比較しても分かりやすい。なかでも当社らしさが出ているのは成長戦略の部分だと思います。
- 野村
- そのうえで、これは単なる整理ではなく「戦略転換の意思表示」だったともいえると思います。欧米市場への挑戦という大きな目標を一つクリアしたうえで、次はステージを上げて「グローバル事業の拡大と加速」に向かうという明確なメッセージです。これは社内に対しても、外部のステークホルダーに対しても、大きな意味を持つものだと思います。
- 奥野
- 人的資本の項目に関して注目しています。特に女性活躍については、2030年をターゲットにした数値目標を設け、一人ひとり候補者をリストアップし、その人をどう育成すればどのポジションに就くかといった育成ロードマップが具体的に描かれています。その結果の目標値設定ということで、そこまでウォッチできている点に、実効性のあるアプローチを感じます。
- 野村
- 国内中心だった経営基盤が、海外展開という新たなフェーズに入りつつあるなかで、やはりグローバル人財を育成していくことは大きな課題だと思います。
変革を続ける小野薬品に期待する
こと
「グローバルスペシャリティファーマ」実現に向け、取り組むべき課題についてお聞かせください。
- 野村
- グローバルスペシャリティファーマを目指すにあたって、大前提として必要なのは「足元の強さ」だと思います。国内事業の収益基盤をより強固なものにして初めて、海外展開においても本領が発揮できるはずです。その意味で、国内事業のさらなる強化は、グローバル戦略の土台として重要だと考えています。
- 長榮
- 当社の海外売上収益比率は30%以上ですが、内訳としてはロイヤルティがほぼすべてを占めており、製品の売上自体は1%程度です。そうした意味でも、海外売上を伸ばしていくための人財の面の課題は大きいと考えます。国内人財のうちでグローバル人財は、やはりまだ少ない。海外で経営を任せるなら、その土地の文化を理解し、現地人財を率いるリーダーが必要になります。今は、小野本社から人財が派遣され、コミュニケーションを密にして、相互理解や一体感の醸成に向けた取り組みを行っていますが、何年か先を見越した場合、現地の人財をもっと増やして企業理念の浸透をはじめとした、小野薬品グループにふさわしい人財に育てる取り組みを進めていかなければなりません。最終的には、現地で経営を完結できる体制を目指すべきです。
- 奥野
- 人財育成にはどうしても時間がかかります。今のフェーズでは、外部から即戦力を採用する必要も出てきます。デサイフェラ社の約400人は、大きなグローバル人財のプールですが、さらにグローバル人財を育てるためのマネジメント人財も外部から採用しないと、2031年のビジョン実現には間に合わないでしょう。ただし、採用するだけでは意味がありません。優秀な人財が「ここで働きたい」と思える企業であることが前提になります。そのためには、魅力的なインセンティブも含め、採用、育成などに関する大きな意思決定が必要です。
- 野村
- グローバルスペシャリティファーマの実現にあたっては、当社が持つオープンイノベーションの力もあらためて強みとして意識すべきだと思います。オプジーボの成功に象徴されるように、外部の技術やアイデアを見極め、それを事業化につなげる力は業界内でも高く評価されています。オープンイノベーションを通じて、外からどんどんいいものを吸収していく取り組みをグローバル展開でも活かしていければ、大きな優位性になるはずです。
- 奥野
- 私は最近、当社で提唱される「変革」という言葉の裏にあるものも大事にしたいと思っています。当社は真面目で誠実な企業風土を持っています。その強みを失わずに変わっていくという、ある種の“両立”にこそ、この会社の魅力があると感じています。伝統を捨てるのではなく、ベースを活かしながら次のグローバル展開に向けて進化するのが望ましいのです。
- 長榮
- 制度や戦略だけでなく、会社としての「姿勢」が問われる時代です。近年、さまざまな企業の不祥事が取りざたされていますが、その根幹には企業風土の問題が潜んでいると考えています。一方で当社の社員や取締役と話をしていると、非常に真面目で、風通しのよい会社であり、やることをしっかりとやってきているという印象を受けます。
- 野村
- 製薬会社としての価値の根幹は、やはり「人々の健康に貢献すること」です。患者さんの命に直結する事業を担っている以上、新しい薬を開発していくのがステークホルダーへの一番の貢献になります。当社がその軸をぶらさずに、強みを活かしながらグローバルに挑戦することが企業価値の向上につながるものと思います。
- 長榮
- ステークホルダーが期待するのは、企業の将来性です。今後控えるパテントクリフを、デサイフェラ社の買収を通じてどう克服していくのか、どんな成長材料を仕込んでいくのか、グループ運営が問われていきます。
- 奥野
- 株主の皆さまはもちろん、患者さんや医療従事者、地域社会など、広範なステークホルダーに目を向けるなら、短期的な業績だけではなく、当社の革新的医薬品の本質的な価値や、環境・社会への貢献などの、長期的な社会への提供価値について説明していく必要があります。当社は環境配慮に優れた経営を実践しており、その姿勢自体が企業の信頼を支えています。厳しい状況にあっても、丁寧な発信を重ね、さまざまなステークホルダーに対して提供価値を訴求していくことが、その先の成長につながっていくと確信しています。