CEOメッセージ

2021年度の振り返り

4期連続で増収増益を達成し、
成長戦略を着実に前進させました

2021年度は、継続するコロナ禍に加え、世界経済にも大きな影響を及ぼす紛争が勃発し、社会情勢の不確実性が増した一年でした。当社でも事業活動において少なからず影響はありましたが、抗悪性腫瘍剤「オプジーボ点滴静注」や、糖尿病、慢性心不全および慢性腎臓病治療剤「フォシーガ錠」などの主要製品の販売拡大により、売上収益は3,614億円、営業利益は1,032億円となり、4 期連続の増収増益を達成できました。
この結果は、2017年に策定した中長期的な4つの成長戦略「製品価値最大化」「研究開発の強化」「海外への挑戦」「企業基盤の強化」の実践を着実に進展させてきた成果だと考えています。
「製品価値最大化」では、主力のオプジーボにおいて2021年度に日本、韓国、台湾で胃がんの一次治療について承認を取得。また、食道がんの術後補助療法についても承認を取得し治療ラインを拡充することができました。さらに日本、韓国で尿路上皮がんの術後補助療法について承認を取得するなど、製品の価値を高めることができました。
「研究開発の強化」では、5つの新薬候補化合物の臨床試験を開始することができました。
「海外への挑戦」については、米国での自販体制の構築が加速し、本格展開の準備が整いつつあります。
「企業基盤の強化」においては、IT・デジタル基盤を充実させるとともに、グローバル化を牽引できる人財の育成を推進しています。
今後も、成長戦略の実践スピードを加速させ、着実に成果を積み重ねていきたいと考えています。

業界環境と中長期的な課題

積極的な研究開発投資により
さらなる成長を目指していく

医薬品業界における新薬創製のハードルは非常に高くなっています。高血圧、糖尿病などの治療薬はさまざまな作用機序の治療薬がすでに開発・発売され、その治療に貢献しています。現在、残っているのは、がんやアルツハイマー型認知症を筆頭とする神経中枢系の病気や、未解決の感染症、免疫に関わる疾患など、開発が非常に難しい領域です。これらの難しい領域をターゲットに研究・開発しなければならず、その難易度が上がっています。当然、難易度が上がると、高度な技術や人的リソースは必要ですし、時間もかかる、そして費用もかかるにもかかわらず、成功確率が低下していきます。また、国内では、社会保障費が増えるなか、財政的な観点から医療費・薬剤費が抑えられ、特に薬剤費に対する圧力が強くなってきています。結果として、薬価改定という形で薬剤費に調整が入り、研究開発コストの回収が難しくなるといった厳しい事態にもなります。
このような状況の中で継続的に成長していくためには、開発パイプラインの強化が必須です。メガファーマと異なり、当社のような規模の会社では、想像力、目利き力を最大限発揮して、さらにオープンイノベーションを推進する必要があります。また、これまで、研究は規模ではなく質だと考えていましたが、近年は最低限の質を担保するため、また、開発をよりスピーディーに進めるためには、一定の規模が必要になっていますので、さらに積極的な研究開発投資を行っていきます。
こうした厳しい事業環境ではありますが、一方で開発段階での治験を効率よくやれる方法なども出てきています。例えば、一般的な治験の場合、プラセボ(偽薬)を飲んでいる人と、実薬を飲んでいる人で有効性・安全性を比較するのですが、将来的には、プラセボのデータの代わりに蓄積されたビッグデータを活用する、つまり治験は半分の例数で行うことができる、といった方向へシフトしていくことに期待しています。
中長期的な課題としては、約10 年後に控えている主力製品である抗悪性腫瘍剤「オプジーボ」のパテントクリフがあります。振り返ってみると、私が社長に就任したのは2008年でしたが、当時の主力製品の90%の特許が3~4 年以内に切れる状況になっており、研究所から出てくる次の新薬は、その特許切れには間に合わないといった厳しい状況でした。そこで我々ができることとしては、外部から医薬品の権利を得るライセンス(導入)活動以外になく、会社を挙げて取り組みました。全社一丸になって取り組んだ結果、いくつかのライセンスを成功させることができたのです。
その後も導入した薬を開発・上市していくことで売上を維持していた頃、2014 年に、「オプジーボ」の承認取得、販売にこぎつけました。最初は皮膚がんの治療薬として世に出しましたが、その後肺がんや腎臓がんなど、用途はどんどん広がり、現在では12の効能・効果を承認取得し、2021年度の国内売上は1,124億円となり、2022年度は1,550 億円まで拡大する見込みです。
また、昨年慢性腎臓病の効能・効果を追加取得し、オプジーボに次ぐ売上規模となった「フォシーガ」は、2022年度470 億円の販売を見込んでいます。収益拡大によって生み出されたキャッシュを積極的かつ効率的に活用し、さらなる成長につなげていきたいと思います。

持続的な成長のための戦略

自社創薬とライセンス活動に資源を投入し
中長期的な成長のビジョンを実現していく

現在の事業環境下では、やはり一定水準以上の研究開発投資を続けていくことができる会社しか継続的に成長していけないと考えています。直近の当社の研究開発投資は年間700 億円超ですが、一方、世界のメガファーマでは1兆円規模、日本の大手製薬会社で2,000 億円以上です。わたしたちが700 億円程度の研究開発投資でこの先ずっと存続していけるのかというと、難しいと思っています。どれくらいの投資ができたら持続的に成長し、イノベーションを起こして新薬を創出し、社会的に認められて存続できるか、明確な答えはありませんが、今目指しているのは日本の大手製薬会社と同程度の2,000 億円の研究開発投資です。300 年の歴史を超えて、350年、400年と存続していくためには、今しっかりと投資していかなければいけない。まずは1,000 億円、その先には2,000 億円。そういうビジョンを描いています。
現在、小野薬品では、2017年スタートで、2031年をゴールとする15年間の期間を5年×3期に分けて中期計画を策定し進めており、その最終年辺りに年間2,000 億円の研究開発投資が実現できる会社を目指しています。積極的な投資を行い、まずは自社の研究所からオプジーボの次の世代の新薬を複数出すこと、これが前提です。
しかし自社創薬だけで開発パイプラインを拡充することが難しいのも現実。より積極的に共同研究や創薬提携に取り組みます。そして、ライセンス活動も強化し、これまでは日本およびアジアの権利だけでしたが、世界で販売できる権利を取得していきます。
世界の医薬品市場を見ると、米国は日本の約5倍、欧州は約2倍の規模です。例えば、日本で300億円規模の製品は、米国では1,500 億円、欧州だと600 億円、合計で2,000 億円超のポテンシャルがあることになります。かなりポジティブな考え方になりますが、一つの製品がグローバルで成功したら2,000 億円、二つであれば4,000 億円、三つなら6,000 億円カバーできるということになり、オプジーボの日本、韓国、台湾での売上およびロイヤルティ収入を上回ることになります。
ですから、今後は、米欧市場での自販に挑戦していきます。当社はこれまで国内中心の企業でしたので、米欧市場での自販が成功すれば、大きな成長が可能になります。

新たに重要課題(マテリアリティ)を特定

成長戦略と非財務資本拡充を経営の
軸に据え、幅広い価値を創造し社会へ提供していきます

成長戦略の推進をより強固にし、幅広い価値を創造し、社会への提供を実現していくために、これまでCSRに関する課題を中心として設定していた重要課題(マテリアリティ)を、財務と非財務を併せた経営のマテリアリティとして再特定しました。
また、今後、2022年に再設定した4つの成長戦略「製品価値最大化~患者本位の視点で」「パイプライン強化とグローバル開発の加速」「欧米自販の実現」「事業ドメインの拡大」を推進していくうえで、その基盤となる「デジタルトランスフォーメーション(DX)」や「人財」の強化・育成にも経営資源を投入していきます。
「DX」については、2022 年1月にデジタル・IT 戦略推進本部を設置しました。従来のインフラ構築を中心としたITの司令塔的役割だけではなく、経営の効率を飛躍的に上げること、イノベーションを今まで以上に進めることを目的とした組織です。例えば、研究本部、開発本部、CMC・生産本部、営業本部などの各部門で自分たちの仕事の生産性・効率性を飛躍的に上げる、変革を起こす。これらをデジタル・ITの利用により、実践、サポートしていくことが狙いです。
「人財」については、イノベーションを創出する社員の育成にさらに注力していきます。新薬の創製やグローバル市場への展開などの成長戦略を推進するためには、イノベーションを追求する強い意志や資質を持った人財が不可欠です。そこで、2021年5月に、社員のイノベーション力を育むためのプログラムとして、「Ono Innovation Platform」を開設。このプログラムを通じて、社員一人ひとりの挑戦を加速させ、イノベーターとしての成長を支援しています。
また、人財の多様性向上も大きなテーマと考えています。当社は、10 年ほど前までキャリア採用をほとんど実施していませんでした。それで支障なく事業が進められていましたが、オプジーボの登場により状況が一変しました。当社はそれまで、がん領域の製品を扱ったことがなく、それまで糖尿病領域を担当していた開発部員やMRが、次はがん領域です、となってもすぐには対応困難で、育成に何年もかかるわけです。そこで、がん領域のキャリアを持つ人財を大量に採用しました。それ以降も、事業展開のスピードを上げるため、さまざまなスキルを持ったキャリア人財を拡充してきました。
今後は、人財の多様化のスピードをもっと上げていきたい。女性の採用や活躍推進はもちろん、さまざまな経験や個性を持つ社員が集まりイノベーションを起こして、その結果、患者さんの役に立つというのが最高のシナリオです。それが実現できれば会社も成長し、次の研究開発投資にもつなげていけるようになる、そんな理想を描きながら一歩一歩、挑戦を進めています。
コーポレート・ガバナンスの観点からも、多様性は重要であると考えています。2020年は、当社初の女性取締役を社外から迎え、取締役会が活性化したと実感しています。2022年には、これまで私が担っていた役員報酬や役員人事の検討会議の議長を社外取締役に交代するなど、より一層、多様な外部の目や知見を経営に取り入れる体制に進化しています。
また、地球規模の課題でもある「環境保全」に関しては、「製薬業界における環境リーディングカンパニー」を目指して、高い目標にも果敢に挑み、業界全体をリードしていきたいと考えています。2019年10月には、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」への賛同を表明し、気候変動に関連するリスクと機会の評価や管理を実施し、情報を開示しています。
2020 年6月には、事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーで調達することを目指す国際イニシアチブである「RE100」に、日本の製薬業界で当社が初めて加盟しました。こうした社会課題への取り組みは、300 年の歴史を持つ会社の責務でもあるとの認識から推進・強化を図っています。

今後の展望・抱負

大きく飛躍するチャンスが到来、
強い意志を持って挑戦していきたい

これからの当社の事業・経営のベースとなるのは、継続的に成長していくために、新薬メーカーとして真に社会から認められ、必要とされる企業になること。そのためには、チャレンジ精神が最も必要です。
社員皆が「ああしたい、こうしたい」と前向きに夢を語りながら仕事をしている、そんな会社にしていきたい。その結果、新薬をしっかりと生み出せる会社になっていると考えています。
私をはじめとする経営陣がなすべきは、会社の進むべき道筋を描き、そのプロセスも明確にして、なすべき仕事を示すことです。私はその旗振り役を務めてまいります。一日のうち、睡眠や食事等を除くと、仕事の時間が大部分を占めますので、仕事の充実は満足度の高い人生に向けての大きな要素になります。ですから、社員一人ひとりにとって会社が大いにチャレンジできる舞台となるよう、全力を尽くしたいと思います。
小野薬品は300年間小さい会社のままで過ごしてきましたが、今、大きく成長するチャンスだと考えています。会社が成長するタイミングはそれぞれですが、その機を逃さず飛躍することが大切だと思っています。「メガファーマも最初は小さい会社だったじゃないか」̶̶当社もこのタイミングを逃さず、成長していきたい。そんな強い意志を持ちながら、挑戦を続けていきたいと考えています。
ステークホルダーの皆様には、引き続きご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。