Povetacicept、FDAからIgA腎症を対象にブレイクスルーセラピー、原発性膜性腎症を対象にファストトラックにそれぞれ指定され、グローバル第I/II相臨床試験で進展
小野薬品工業株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役社長:滝野 十一、以下「当社」)は、米国時間2025年11月8日に、Vertex Pharmaceuticals Incorporated(本社:米国、マサチューセッツ州 ボストン、最高経営責任者: Reshma Kewalramani, M.D.、以下「Vertex社」)が、povetaciceptの第I/II相臨床試験におけるプレスリリースを発出したことをお知らせします。
本リリースの内容については、Vertex社の英語原文のプレスリリースを和文抄訳として提供するものであり、解釈に相違がある場合は英語原文が優先されます。
英語原文のプレスリリースは、https://news.vrtx.com/ をご覧ください。
当社とVertex社との提携:
当社は2025年6月20日にVertex社とライセンス契約を締結(詳細は こちら を参照)し、povetaciceptについて日本、韓国で独占的に開発・商業化する権利を取得しており、Vertex社によってIgA腎症、原発性膜性腎症を含む複数の重篤なB細胞介在性疾患の治療薬として開発が進められています。
(以下、和文抄訳)
Vertex社、米国腎臓学会Kidney Week 2025にて
IgA腎症および原発性膜性腎症に対するベストインクラスの治療薬になりうる
povetaciceptの第I/II相臨床試験(RUBY-3試験)の最新データを発表
- 投与48週時点のデータで、IgA腎症では尿タンパクがベースラインから64%減少、原発性膜性腎症では尿タンパクがベースラインから82%減少し、両疾患において推算糸球体濾過率が安定化
- IgA腎症を対象とした第III相RAINIER試験の患者登録は完了しており、今年中に米国食品医薬品局(FDA)へ迅速承認を目指した生物製剤承認申請(BLA)のローリング申請を行う予定
- 原発性膜性腎症を対象にFDAよりファストトラック指定を受け、第II/III相ピボタル試験開始
Vertex Pharmaceuticals Incorporated(Nasdaq: VRTX、本社:ボストン)は、本日(11月8日)、テキサス州ヒューストンで開催された米国腎臓学会(ASN)Kidney Week 2025において、IgA腎症および原発性膜性腎症におけるpovetacicept(pove)の最新データを発表しました。Poveは、BAFF(B cell activating factor)およびAPRIL(a proliferation inducing ligand)に対するデュアル拮抗薬として開発中の遺伝子組換え融合タンパク質です。Poveは、複数の腎疾患を対象としたピボタル試験において唯一のBAFF + APRIL拮抗剤です。
本日のレイトブレイキング演題(SA-OR091)では、IgA腎症および原発性膜性腎症の成人患者に4週間ごとに皮下投与された非盲検の第I/II相RUBY-3試験の中間データが口頭発表されました。RUBY-3試験の48週間の解析には、pove 80mgを投与されたIgA腎症患者21名と原発性膜性腎症患者10名が含まれており、このうち17名と5名がそれぞれ48週間の評価を完了しています。
IgA腎症における結果
IgA腎症では、48週時点でのpove 80 mgコホートの主な有効性の結果は、尿タンパク/クレアチニン比(UPCR)の24時間平均値がベースラインと比較して64%減少し、推算糸球体濾過率(eGFR)の変化量は、ベースラインから3.3±3.1 mL/min/1.73m2と安定し、患者の90%(9/10)が血尿の改善を達成(投与前から中等度以上の血尿レベルの患者において、血尿が陰性または少量に減少したと定義)し、53%の患者が臨床的寛解を達成(UPCR <0.5 g/g、血尿陰性、投与前に比してeGFRが25%未満の減少と定義)しました。
原発性膜性腎症における結果
原発性膜性腎症コホートでは、48週時点での主な有効性の結果は、24時間平均UPCRがベースラインから82%減少し、eGFRがベースラインから-0.3±3.4 mL/min/1.73m2で変化は安定しており、患者の40%が臨床的な完全寛解(UPCR <0.5 g/gと定義)を達成しました。
Poveの安全性と忍容性は概ね良好で、有害事象の多くは軽度または中等度であり、Poveに関連する重篤な有害事象はありませんでした。安全性データはこれまでの中間解析の結果と一致しており、安全性プロファイルはIgA腎症と原発性膜性腎症のコホート間で類似していました。
RUBY-3の治験統括医師でEmory医科大学医学部教授、Georgia Nephrology病院の臨床研究ディレクターであるJames Tumlin(M.D.)は次のように述べています。「今回の試験で得られたデータは、IgA腎症や原発性膜性腎症のような高いアンメットニーズのある重篤な腎疾患の治療を変革するBAFF + APRIL阻害の有効性を示しています。特に、IgA腎症において、48週間のフォローアップでpoveにより治療された患者の約3分の2が完全寛解(UPCR <0.5 g/g)を達成したことは、最新のKDIGOガイドラインに沿ったものであり、IgA腎症や原発性膜性腎症の治療を後押しする有望な結果となるものです。」
RAINIER試験の運営委員であり、Stanford大学医療センター医学部(腎臓学)の教授であるRichard Lafayette(M.D.)は次のように述べています。「第III相RAINIER試験への患者登録が迅速に進んでいるのは、IgA腎症に対する効果的な治療を必要とする患者さんのニーズが非常に高いことを示しています。IgA腎症や原発性膜性腎症の患者さんは、腎臓の機能的単位であるネフロンの喪失という特定の要因に作用し、持続的な疾患コントロールを可能にする新たな疾患修飾治療を必要としています。RUBY-3試験での2つの重篤な腎疾患におけるpoveのデータは、BAFF + APRIL阻害のデュアルアプローチの有用性を裏付けるものであり、第III相RAINIER試験の結果が得られるのを心待ちにしています。」
Povetacicept開発計画
Vertex社は2025年9月25日、米国食品医薬品局(FDA)がpoveをIgA腎症に対するブレイクスルーセラピーに指定したことを発表しました( 参照 )。Vertexは、迅速承認に向けた生物製剤承認申請(BLA)のためのローリング申請の最初のモジュールを今年中に提出する予定です。Vertex社は、IgA腎症を対象としたpoveのBLA審査を10か月から6か月に短縮できるように、優先審査バウチャーを行使する意向をFDAに通知しました。第III相RAINIER試験は現在、全ての患者登録が完了しています。
また、Vertex社は原発性膜性腎症を対象とするpoveの開発に対してFDAからファストトラック指定も受けており、ピボタル第II/III相OLYMPUS試験の患者登録が現在進行中です。原発性膜性腎症は、poveがベストインクラスの可能性を示した2番目の適応症です。
Povetacicept(Pove)について
Poveは、BAFF(B cell activating factor)およびAPRIL(a proliferation inducing ligand)に対するデュアル拮抗薬です。BAFFおよびAPRILは、B細胞の活性化、分化および生存を促進し、複数の自己免疫疾患の病態進展に重要な役割を果たしており、poveはBAFFおよびAPRILを阻害することでB細胞の働きを制御します。Poveは遺伝子改変TACI(transmembrane activator and CAML interactor)ドメインからなり、前臨床試験において、他のBAFF阻害薬および/またはAPRIL阻害薬の単剤投与と比較して高い結合親和性および優れた効果を示します。この前臨床データと、これまでに得られている臨床データの特徴と最適な投与方法と組み合わせることで、制御不能なB細胞によって引き起こされる多くの重篤な自己免疫疾患に対して、poveがベストインクラスの薬剤となる可能性が期待されます。Poveは臨床試験中の薬剤であり、まだ世界のいずれの国においても承認されていません。
IgA腎症について
IgA腎症は、制御不能の自己反応性B細胞活性化によって引き起こされる重篤で進行性、かつ生命を脅かす腎臓病で、原発性糸球体腎炎の最も一般的な原因であり、米国、欧州で約30万人が罹患しています。日本では約3.3万人、中国では約75万人の患者がいると推定されています。IgA腎症は、免疫グロブリンとガラクトース欠損型糖鎖異常IgA1(Gd-IgA1)からなる免疫複合体が腎糸球体メサンギウムに沈着することで発症し、腎障害と線維化を引き起こします。最大72%のIgA腎症患者は20年以内に末期腎不全に進行します。IgA腎症の根本原因を特異的に標的とする承認された治療法はありません。
原発性膜性腎症について
原発性膜性腎症は、制御不能の自己応答性B細胞活性化により、タンパク質ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)を含む糸球体抗原に対する自己抗体が産生される、希少かつ重篤な自己免疫性糸球体疾患です。米国と欧州では約15万人が診断されています。過剰産生されたこれらの自己抗体は、腎障害、線維化や腎不全を引き起こします。原発性膜性腎症の根本原因を特異的に標的とする承認された治療法はありません。
ファストトラック指定について
ファストトラック指定は、米国FDAが実施するプログラムで、深刻または生命を脅かす状態を治療し、アンメットメディカルニーズを満たす可能性のある新薬や生物製剤の開発と審査を迅速化することを目的としています。これに指定されると、該当する薬剤の開発は促進され、審査も迅速化されます。
ブレイクスルーセラピー指定について
FDAによるブレイクスルーセラピー指定(BTD)は、深刻な状態に対処することを目的とし、既存の治療法に対して1つ以上の臨床的に重要なエンドポイントで実質的な改善を示すことが期待される予備的な臨床エビデンスを持つ薬剤の開発と審査を迅速化することを目的としています。BTDは、第II相RUBY-3臨床試験のデータに基づいて、poveのIgA腎症を対象とする開発に対して付与されました。
RUBY-3試験について
RUBY-3試験は、自己免疫性糸球体腎炎(IgA腎症、原発性膜性腎症、ループス腎炎、糸球体腎炎を伴うANCA関連血管炎)を対象として進行中の複数用量漸増、複数コホート、非盲検の第I/II相バスケット試験です。この試験では、poveが最大104週間にわたり皮下投与されます。
RAINIER試験について
RAINIER試験は、IgA腎症の患者約480人を対象に、標準治療に加えてpove 80 mgを4週間ごとに皮下投与する群とプラセボを投与する群を比較するグローバル第III相無作為化プラセボ対照ピボタル試験です。この試験は、事前に決められた患者数が36週間の投与を完了した後に、pove群とプラセボ群のUPCRのベースラインからの変化率を中間解析することで計画されています。ポジティブな結果が得られれば、この中間解析の結果をもって、Vertexは米国での迅速承認を進める可能性があります。最終解析は2年間の投与後に行われ、主要評価項目は104週目までのeGFRの総スロープです。RAINIER試験のデザインは、ASN Kidney Weekでポスター(FR-PO0813)発表されました。
OLYMPUS試験について
OLYMPUS試験は、原発性膜性腎症の患者約176人を対象にした、グローバル第II/III相無作為化アクティブコントロールのピボタル試験です。第II相試験の部分では、患者はpoveの2つの用量のいずれかを投与されるように無作為化され、最後の患者者が12週間の投与を完了した後に第III相試験の投与量が選択されます。第III相試験の部分では、患者は選択されたpoveの投与量またはカルシニューリン阻害剤を投与されるように無作為化されます。最終解析は2年間の投与後に行われ、主要評価項目は104週目に臨床的に完全寛解を達成した患者の割合となります。
Vertex社について
Vertex社は、重篤な疾患に対する革新的な医薬品を創出するための科学的イノベーションに投資するグローバルバイオテクノロジー企業です。Vertexは、嚢胞性線維症、鎌状赤血球症、輸血依存性ベータサラセミア、急性痛に対する複数の承認薬剤を有しており、これら疾患に対する臨床開発や研究プログラムを推進し続けています。また、Vertexは、神経障害性疼痛、APOL1介在性腎疾患、IgA腎症、原発性膜性腎症、常染色体優性多発性嚢胞腎、1型糖尿病、筋強直性ジストロフィー1型を含むヒト生物学的な原因について深い洞察が得られている他の重篤な疾患において幅広いモダリティを対象とした強固な開発パイプラインを有しています。
Vertex社は1989年に設立され、ボストンにグローバル本社を、ロンドンに国際本部を有しています。さらに、北米、欧州、オーストラリア、中南米および中東に研究開発拠点および営業拠点を有しています。Vertexは、サイエンス誌の「Top Employers list」に16年連続でランクインし、フォーチュン誌の「100 Best Companies to Work For」にも選出されるなど、業界トップクラスの働きがいのある企業として高い評価を得ています。Vertexに関する最新情報やVertex社のイノベーションの歴史を更に知りたい方は、www.vrtx.com をご覧いただくか、LinkedIn 、Facebook 、Instagram 、YouTube および X をフォローしてください。